36協定提出確認、見落とし厳禁の月末消し込み
月末のオフィスに漂う、独特の緊張感。経理や総務の担当者なら、この空気に覚えがあるだろう。締め切りに追われ、次々と舞い込む書類の山。私の部署では、それが「36協令」の提出状況確認だった。全国に散らばる数十の拠点から、メールや共有フォルダに。思い思いのタイミングで申請書が投げ込まれる。PDF、Excel、時にはスキャンしただけの画像ファイル。その混沌としたデータ群を前に、私の仕事は始まる。
まず、全拠点が記載された巨大なExcelマスタを開く。そして、受信トレイを「36協定」というキーワードで検索し、一件一件。添付ファイルを開いては拠点名を確認する。確認が取れたら、Excelマスタの該当するセルの色を緑に変える。紙で提出されたものは、手元のチェックリストに赤ペンで印を付ける。このひたすら地味で、神経をすり減らす作業が、月末の数日間、私の時間を支配した。目は霞み、肩は石のように固まる。PCのモニターと手元のリストを往復する視線。それは、創造性とは無縁の、ただの「消し込み」という名の消耗戦だった。
36協定確認、ミス許されぬ2時間の重圧
まず、Outlookの検索窓に「36協定」と打ち込み。表示された30通以上のメールを上から順に開いていく。添付ファイル名が「36協定.pdf」だけだったりすると。一度ファイルを開いて中身の拠点名を確認しないといけない。その拠点名をExcelのリストから探し出し。Ctrl+Bで検索窓を開いて…という操作を繰り返すだけで。気づけば2時間が経過していた。コーヒーはとっくに冷めきっている。
この作業の恐ろしい点は、たった一つの見落としが許されないことだ。一つの拠点の漏れが、会社全体のコンプライアンス問題に直結する。その重圧が、クリックする指先にずしりと乗っかっていた。
緑の罠、36協定見間違い
その日は、提出期限の前日だった。いつものように消し込み作業を終え。すべての拠点のセルが緑色に染まったExcelシートを眺めて。安堵のため息をついた。これで今月も乗り切った。そう思った矢先、人事部長から内線電話が鳴った。「君、〇〇支店の36協定、どうなってる?支店長から。受理されたかどうかの確認があったんだが」。
次に、血の気が引いた。私のリストでは、〇〇支店は確かに「緑色」になっている。提出済みのはずだ。しかし、部長の口調は確信に満ちていた。「いや、提出済みです」と答えながらも、指先は冷たくなり。心臓が嫌な音を立て始めた。慌ててメールの受信トレイや共有フォルダを何度も検索する。だが、〇〇支店からのファイルはどこにも見当たらない。冷や汗が背中を伝う。まさか。
見間違いが招いた36協定危機
Excelのリストをスクロールし、問題の〇〇支店の行を見つける。確かにセルは緑色に塗られていた。しかし、そのすぐ下にあった「〇〇中央支店」からのメールを。「〇〇支店」のものだと勘違いして塗りつぶしていたことに気づいた。似たような名前の拠点が並んでいたための、単純な、しかし致命的なヒューマンエラー。頭が真っ白になり、胃が締め付けられるような感覚に襲われた。
自分のミスだった。単純な見間違い。しかし、その結果はあまりにも大きい。提出期限は明日。今から支店に連絡して、大急ぎで書類を作成・提出してもらわなければ。労働基準監督署への届け出が間に合わない。会社のコンプライアンスを揺るがす事態を引き起こしてしまった。このたった一つの見落としが、会社にどれだけの損害を与えるか。想像するだけで、目の前が暗くなった。
一方で、36協定の労働基準監督署への提出期限まで、残り24時間という絶望的な状況。

人間の注意に依存した管理の破綻
幸い、〇〇支店の担当者の協力もあって、その件はギリギリのところで事なきを得た。しかし、私の心には大きな傷跡と、そして一つの確信が残った。それは、「人間の注意力に依存した管理体制は、いつか必ず破綻する」ということです。
今回の一件は、私が不注意だったから起きたのではない。そもそも、何十もの拠点名を、目視で一つ一つ確認し。手作業で消し込むというプロセス自体に、構造的な欠陥があったのだ。人は疲れるし、集中力も途切れる。似たような名前があれば見間違えるし。ダブルクリックしたつもりができていないこともある。どんなに「気をつける」「ダブルチェックする」と心に誓っても。ミスが起こる確率をゼロにはできありません。
そのため、特に、36協定のようなコンプライアンスに関わる業務は。たった一度のミスが会社の信用を失墜させかねない。それを個人の「頑張り」や「責任感」といった。不確かなものに委ねてしまっている現状は、あまりにも危険すぎる。これはもはや、担当者個人の問題ではなく。組織全体で取り組むべきリスク管理の問題なのです。

予算ゼロの勤怠管理、確実な方法
高価な勤怠管理システムを導入すれば解決するのかもしれない。しかし、中小企業や、システム導入の予算が下りない部署では。そんな夢物語は通用しない。今ある環境で、この致命的なリスクをどうにかして根絶やしにしなければならない。精神論ではない、もっと物理的で、確実な方法が必要だった。
VLOOKUP発想のマスタ突合でミス排除
深夜のオフィスで、冷めたコーヒーをすすりながら、私は考え続けていた。どうすれば、人間が介在することによるミスを物理的に排除できるのか。そのとき、ふと頭に浮かんだのが、ExcelのVLOOKUP関数だった。二つのリストを比較し、片方にしか存在しないデータを見つけ出す、あの機能。
しかし、これだ、と思った。
問題の本質は、私が「目で見て探している」ことにある。人間が目で探すから、見落としや勘違いが起こる。ならば、探すという行為そのものを、コンピュータに任せてしまえばいい。
具体的にはこうだ。まず、絶対に正しい「全拠点リスト」をマスタデータとして用意する。次に、各拠点から提出されたファイルが格納されているフォルダを用意する。プログラムがやるべきことは、極めてシンプルです。
ここで一度立ち止まって考えてみてください
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マスタと実績突合、未提出拠点洗い出し
さらに、1. 全拠点リスト(マスタ)を読み込む。2. 提出済みフォルダの中にあるファイル名の一覧(実績)を読み込む。3. マスタの拠点名が、実績の中に一つずつ存在するかをチェックする。4. 存在しなかった拠点名。つまり「未提出拠点」だけをリストアップして報告させる。
この「マスタと実績の突合」という考え方にたどり着いた瞬間。目の前の霧が晴れるような感覚があった。これなら、人間の注意力は一切関係ない。ファイル名さえ正しくつけてもらえれば、プログラムが機械的に。かつ網羅的に未提出拠点をあぶり出してくれる。見落としは、物理的に起こり得なくなる。
昔、営業管理の仕事で、顧客マスタと当月の受注リストを突き合わせて。未アプローチの顧客を洗い出す作業をVLOOKUPでやっていたことを思い出した。あの時はExcelシート同士だったが、理屈は同じはずだ。片方を「あるべき姿(全拠点マスタ)」。もう片方を「現実の姿(提出済みファイル)」と見立てれば。その差分こそが我々の探している「未提出リスト」になる。このシンプルな構造に気づいた時、問題解決への道筋がはっきりと見えた。

まず、もう、Excelのセルを一つ一つ睨みつける必要はない。必要なのは、このロジックを動かすための、ささやかなプログラムだけだった。
Pythonで実現!提出状況チェックの仕組み
高価な専用システムを導入する予算はない。しかし、幸いなことに、私のPCにはExcelがインストールされていたし。少し調べればPythonというプログラミング言語も無料で使えることがわかった。どちらを使っても、「マスタとの突合」というコアなロジックは実現可能だ。今回は。より手軽に始められるVBA(Visual Basic for Applications)ではなく。将来的な拡張性も考えてPythonで挑戦してみることにした。
作成したツールの仕組みは、先ほど考えたロジックそのままです。
まず、`拠点マスタ.xlsx` というファイルを用意する。これには、A列に全拠点の正式名称が漏れなくダブりなく記載されている。これが正義のデータとなる。
次に、各拠点から送られてきた36協定のファイル(例:`〇〇支店_36協定.pdf`)を、`提出済みフォルダ` という名前の一つのフォルダに全て集約するルールを設けた。
未提出リスト自動抽出
そして、Pythonスクリプトを実行すると、内部では以下の処理が自動で行われる。
まず、`フォルダ内ファイル名の取得` を行う。Pythonのosライブラリを使えば、指定したフォルダ内の全ファイル名を簡単にリストとして取得できる。これが「実績」のデータだ。
次に、pandasライブラリを使って `拠点マスタ.xlsx` を読み込み、拠点名の一覧を取得する。これが「マスタ」だ。
最後に、マスタの拠点名を一つずつ取り出し、実績リストの中にその名前が含まれるファイルが存在するかをチェックしていく。もし存在しなければ、その拠点名を「未提出リスト」に追加する。全てのチェックが終わると、最終的にできあがった `未提出リストの抽出` 結果を画面に表示したり、テキストファイルとして出力したりする。
次に、このコードを書いている時間は、不思議と苦痛ではなかった。むしろ、これまで手作業でやっていた非効率な業務を。自分の手で根本から覆していく感覚に、静かな興奮を覚えた。

業務自動化の感動と安心
完成したツールを初めて実行したときの感動は、今でも忘れられない。これまで何時間もかけて、神経をすり減らしながら行っていた消し込み作業。それが、デスクトップに置いたバッチファイルをダブルクリックするだけで。わずか数秒で完了したのです。
手作業で平均3時間時間かかっていたチェック作業が。スクリプト実行により5秒秒で完了した。
一方で、実行すると、黒いコマンドプロンプトの画面が一瞬表示され、すぐにデスクトップに `未提出拠点リスト.txt` というファイルが生成される。ファイルを開くと、そこには提出がまだの拠点名だけが、過不足なくリストアップされていた。まさに「1ボタン」で、知りたかった情報が手に入る。
劇的効率化と精神的平穏
このツールの導入効果は、単なる時間短縮だけにとどまらなかった。最も大きな変化は、その後の督促業務の速さと正確性だ。以前は、手作業でのチェックが終わってから、「さて。どこに催促しようか」とリストを見返していた。しかし今では、ツールが弾き出したリストをそのままコピーし。メーラーの宛先にペーストして、定型文の催促メールを送るだけ。チェックからアクションまでの時間が劇的に短縮された。
何よりも得られたのは、精神的な平穏だ。「見落としがあるかもしれない」という。あの胃が締め付けられるようなプレッシャーから完全に解放された。コンピュータが出した結果は絶対だ。そこに疑いの余地はない。月末の憂鬱だった36協定の管理業務は、今や私にとって。最も安心できる業務の一つに変わった。

自動化は組織を守る盾
そのため、今回の経験を通して、私は業務自動化に対する見方が大きく変わった。これまで、自動化やプログラミングと聞くと。「作業をラクにするためのもの」「効率化して時間を生み出すもの」という程度の認識しか持っていなかった。もちろん、それも重要な側面だ。しかし、本質はそこではなかった。
自動化の本当の価値は、「人間が介在することで発生しうる。致命的なミスを物理的に防ぐこと」にある。
特に、経理や人事、総務が扱う業務の中には、36協定の提出のように。たった一つのミスがコンプライアンス違反に直結するような。絶対に間違えられないものが数多く存在する。そうした業務を、担当者の注意力や責任感といった不確かなものに依存させている状態は。組織にとって極めて大きなリスクです。
自動化はリスク管理の盾
しかし、手元のPythonやVBAで小さなツールを作ることは。単に自分の作業を楽にするだけではない。それは、会社の危機を未然に防ぐための。最も費用対効果の高いリスク管理手法の一つなのだ。もしあなたが、かつての私と同じように。アナログな消し込み作業と「見落としの恐怖」に消耗しているのなら。一度立ち止まって考えてみてほしい。その作業は、本当に人間の目でやるべきことだろうか。マスタデータと突き合わせることで、機械的に処理できないだろうか。
専門家でなくても、プログラマーでなくてもいい。今ある道具と少しの知識で、会社の未来を救うことはできる。自動化は、ラクをするための飛び道具ではなく、組織を守るための堅実な盾なのです。
関連リンクとチェックリスト
著者はこうして解決の糸口を見つけた
著者も同じ境遇から始まりました。独学でここまで自動化した道のりを参考にしてみてください。
学習サービスとアンケート
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