毎月決まった時期にやってくる月次の勤怠データ集計。全社員の労働時間を集計し、給与計算のベースとなるデータを生成するこの業務は、絶対にミスが許されません。長年この神経をすり減らす作業を担当してきた私は、別部署から配属された新人に業務を引き継ぐことになりました。口頭で教えるのは効率が悪いと考え、誰が読んでも迷わない究極のドキュメントを残そうと思い立ちました。
スクリーンショットをふんだんに使い、矢印でクリック箇所を強調し
スクリーンショットをふんだんに使い、矢印でクリック箇所を強調し、手取り足取り操作手順を書き連ねた「完璧な手順書」を用意しました。印刷してホッチキスで留めた分厚い紙の束を手にしたとき、一種の達成感すら覚えていました。これさえ読めば、システムに触ったことがない方でも、迷うことなく完遂できるはずだと考えていたのです。
意気揚々と新人のデスクに分厚い手順書を置き、「これに全部書いてあるので、読みながら進めてみてください」と告げて自席に戻りました。しかし、淹れたてのコーヒーを一口飲んだ3分後。背後から「あの、この『マスタ』というのはどこのフォルダに入っていますか?」と声をかけられました。その5分後には「『全件流す』というのは、具体的にどういう操作ですか?」と追撃の質問が飛んできました。
結局、私は新人の横にぴったりと張り付き

結局、私は新人の横にぴったりと張り付き、画面を指差しながら一行ずつ手順を翻訳して教えることになりました。自分の説明力のなさに直面し、コーヒーの苦味とは別の、胸のつかえるような思いを感じました。
完璧だという思い込みは、開始わずか数分で無残に打ち砕かれました。読めばわかるように丁寧に作ったつもりでしたが、実際には全く伝わっていなかったのです。画面のどこをクリックするかは克明に記していても、肝心の「その画面をどうやって開くか」という前提が抜け落ちていました。長年同じ業務に携わっている人特有の、恐ろしいほどの「脳内補完」が、手順書の随所に散りばめられていたのです。自分がわかっていることは、他人も当然わかっているだろうという思い込みがありました。そんな傲慢な前提で書かれた文章は、新人にとって暗号解読と何ら変わらない苦痛の塊であったに違いありません。

新人目線」の手順書作成の壁
新人に何度も聞き返され、そのたびに口頭で補足説明を加える。これでは手順書を作った意味がありません。むしろ、手順書を解読するためのサポート業務が新しく発生してしまったようなものでした。どうすれば「配属初日の新人」に伝わる文章になるのか。自分の頭で考えても、どこが抜けているのかすら見当がつかず、一度染み付いた前提知識を自分の脳から消し去ることは不可能に近いと感じていました。
そこで、手元にあったChatGPTに手順書の下書きを丸投げしてみることにしました。ただ「わかりやすく書き直して」と頼むだけでは、丁寧な言葉に変換されるだけで終わってしまいます。必要なのは、私の無意識の省略や専門用語の羅列を見つけ出し、容赦なく指摘してもらうことだと考えました。プロンプトの入力欄に、少し踏み込んだ指示を打ち込みました。
「この手順書を、配属初日の新人でも絶対にミスなく作業できるように書き直してください。説明が不足している箇所や専門用語があれば、厳しく指摘してください」
単なる文章の整形ではなく、論理の飛躍と内容の不備を突っ込ませる
単なる文章の整形ではなく、論理の飛躍と内容の不備を突っ込ませるようにしました。送信ボタンを押し、画面上の処理中アイコンを数秒間眺めました。直後、画面には私の手順書に対する赤字の指摘が、まるで滝のように流れ始めました。
感情を持たないAIからの容赦のない指摘の数々。「この操作の目的が不明です」「〇〇という言葉は一般的ではありません」。AIからの冷静なダメ出しを見て、一気に血の気が引きました。自分が情熱を込めて書いた力作が、いかに「ツッコミどころ満載」だったかを思い知らされた瞬間でした。
指摘は多岐にわたりましたが、特に心に刺さったのは、まさに新人から聞かれた質問と全く同じ内容でした。「『マスタ』とは、具体的に何を指す用語ですか?」「『全件流す』という操作は、どのような手順で実行するのですか?」。これらの言葉は私にとっては疑う余地のない業務用語であり、当たり前の概念でした。しかし、ChatGPTはそこを容赦なく突いたのです。
なぜ私は、これらの言葉が「伝わる」と信じて疑わなかったのでしょうか。それは、長年の業務経験によって、私自身の脳内に強固な「常識の壁」が築かれていたからに他なりません。管理部門の業務は、時に特殊なシステムや専門用語に溢れています。これらは社内では共通言語として機能するため、外部の人間や新入社員には通じないという感覚が麻痺していました。自分にとっての当たり前が、他人にとっては未知の領域であるというシンプルな事実を見落としていたのです。
AIが気づかせた脳内補完の盲点
特に痛感したのは「脳内補完」の恐ろしさです。手順書に「マスタを開く」と書いても、私の中では「システムAにログインし、左メニューから『マスタ管理』を選び、対象のデータ種別を選択して、参照ボタンを押す」という一連の操作として瞬時に補完されていました。画面のどこをクリックするかの「点」は示しても、その「点」に至るまでの「線」が完全に抜け落ちていたのです。これでは、目的地だけ示して、途中の道は自分で見つけろと言っているのと同義でした。
ChatGPTは一切の先入観を持ちません。生まれたばかりの赤ん坊が世界を見るかのように、純粋な視点で文章を読み解き、疑問符を投げかけます。その容赦ない指摘は、私の凝り固まった思考の殻を破り、「相手の視点に立つ」という最も基本的なコミュニケーションの原則を思い出させてくれました。AIは感情を持たないからこそ、最も客観的で厳しいレビュアーとして機能するのです。そこに情けや忖度は一切ありません。だからこそ、自分の認識の甘さをまざまざと突きつけられたのだと感じます。
AIの指摘が変えた「書く技術」と「教える意識」
ChatGPTからの指摘を受け、私は手順書の全面的な見直しに着手しました。まず、各操作の「目的」を明確に記述するよう心がけました。「この操作は、〇〇のデータを確定させるために行います」といった形で、単なる手順の羅列ではなく、作業の意義を伝えることを意識しました。これにより、新人は「なぜこの操作が必要なのか」を理解し、主体的に業務に取り組めるようになったようです。
次に、専門用語の徹底的な排除、あるいは解説を加えました。「マスタ」という言葉を「取引先の会社情報が登録されている一覧画面」と言い換え、どうしても専門用語を使う場合は、初回登場時に注釈を付けました。また、システムの画面を開くための具体的なパスや、どのアイコンをクリックするべきかまで、ステップ・バイ・ステップで詳細に記述しました。キーボードショートカットのような暗黙の了解も、全て明文化しました。

AIを教師に、伝える力と新人育成
これらの改善を施した手順書を使って、改めて新人に業務を引き継いだとき、驚くべき変化が起きました。以前は3分で質問が飛んできた状況が嘘のように、新人は手順書を読み進めながら、自力で作業を進めることができたのです。質問の数は劇的に減り、もし疑問点が出たとしても、それは「このケースではどう判断すればよいか」といった、より本質的な内容に変わっていました。これにより、私のサポート時間も大幅に削減され、新人も自信を持って業務に取り組めるようになったのです。
この経験は、単に手順書を作成する技術が向上しただけでなく、他者に「伝える」ことに対する意識を根本から変えてくれました。ChatGPTは、私に「書く」ことだけでなく、「教える」ことの難しさ、そしてその奥深さを教えてくれました。AIを単なる文章生成ツールとしてではなく、「無知な読者」をシミュレートし、こちらの意図を徹底的に検証させる「厳しい教師」として活用すること。これが、私が手に入れた新たなプロンプト術です。
💡 ここで一度立ち止まって考えてみてください
PythonやExcel自動化スキルを持ったまま、ITエンジニアとして転職したい方には「EBAエデュケーション」が選択肢です。企業が求めるエンジニア像に合わせたカリキュラムで、実務直結のスキルを習得できます。
AIで磨く伝える力と常識の壁突破
例えば、会議の議事録を作成する際にも、「この議事録を、会議に参加できなかった部署の社員が読んでも、決定事項と背景が明確に伝わるようにレビューして」とChatGPTに指示します。社内向けの通知文であれば、「この通知を、ITに疎い社員が読んでも、必要な行動が理解できるように指摘して」と依頼します。このように、明確なペルソナを設定し、その相手が持つであろう前提知識をAIに与えることで、より実用的なフィードバックが得られます。人間が気づけない「常識の壁」を、AIが客観的に浮き彫りにするのです。
AIはあくまでツールであり、最終的に判断を下し、改善を施すのは人間です。しかし、私たちの思考の死角を照らし出し、より良いコミュニケーションの形を探る上で、これほど頼りになる「壁打ち相手」は他にありません。完璧な手順書など存在しないかもしれません。しかし、完璧を目指してAIと対話するプロセスそのものが、私たち自身の「伝える力」を磨き上げていくと確信しています。
ChatGPTが教えてくれた「伝わる」文章の核心
ChatGPTを「厳しい教師」として活用するようになってから、私は「伝わる」文章の核心に気づくことができました。それは、単に言葉を丁寧に並べることではありませんでした。「誰に」「何を」「どのような状況で」伝えるのかを徹底的に意識すること、そしてその相手が持っているであろう前提知識を想像し、それを補うための説明を盛り込むこと。このシンプルな原則が、いかに難しく、そして重要であるかを痛感しました。

読者のペルソナを明確にして依頼するようにした
以前の私は、漠然と「わかりやすく」という指示でChatGPTに依頼していました。しかし、それでは表面的な修正に留まってしまうことが多かったのです。そこで、私はプロンプトに「読者のペルソナ」を明確に加えるようになりました。例えば、「この文章を、〇〇の知識が全くない人に説明するつもりで、説明不足や専門用語を厳しく指摘してください」と指示を変えました。すると、AIからの指摘は格段に鋭さを増し、私が無意識に省略していた部分を的確に洗い出してくれるようになったのです。
具体的には、「この業務は、月末締めの〇〇データを集計し、給与計算システムに連携するためのものです」といった、業務の全体像や目的を冒頭に加えるように指摘されました。また、「マスタ」という言葉を使う際には、「マスタとは、お客様情報や商品情報など、業務の基盤となる定型データが登録されているデータベースのことです」といった丁寧な解説を、初回登場時に必ず入れるように促されました。これらはまさに、私が「言わなくてもわかるだろう」と勝手に思い込んでいた部分であり、新人が最も疑問に感じていた点そのものでした。
AIが磨く事務職の思考と業務品質
さらに、ChatGPTは「この操作を行う前に、〇〇のデータが最新であることを確認する手順が抜けています」といった、作業の前提となる確認事項や、リスク回避のための注意点まで指摘してくれるようになりました。これは、私が長年の経験で「当たり前」として無意識のうちに行っていたことですが、手順書には明記されていなかったものです。AIは、まるで初めてその業務に触れるかのように、ゼロベースで手順書を読み込み、論理の飛躍や抜け漏れを容赦なく指摘してくれるのです。この経験を通じて、私自身の思考プロセスも大きく変化し、何かを説明する際には、まず「相手はどこまで知っているだろうか」と立ち止まって考える習慣が身につきました。
AIとの対話が拓く、文系事務職の新たな可能性
この「厳しい教師」としてのChatGPT活用術は、今では月次業務の手順書作成にとどまらず、私の様々な業務に活かされています。例えば、取引先への謝罪文を作成する際には、「相手の感情に配慮しつつ、事実関係と今後の対応策が明確に伝わるか、言葉遣いに不適切な点はないか、厳しくレビューしてください」と依頼します。社内向けの新しいシステム導入に関する通知文であれば、「ITに不慣れな社員が読んでも、次に何をすべきか迷わず理解できるか、専門用語の多用はないか、指摘してください」とプロンプトに加えることで、より分かりやすく、かつ丁寧な文章を作成できるようになりました。
ChatGPTと文系事務職:成長を促す対話パートナー
以前は、こうした文章を作成する際、何度も読み返しては「これで伝わるだろうか」「誤解されないだろうか」と不安に感じ、同僚にレビューを依頼することも少なくありませんでした。しかし、今ではChatGPTがその役割を担ってくれるため、安心して文章を作成し、業務を効率的に進めることができるようになりました。AIが指摘してくれた点を修正し、再度レビューを依頼することで、最終的には誰が読んでも理解できる、精度の高い文章に仕上げることが可能です。これにより、文章作成にかかる時間も大幅に短縮され、私の業務全体にゆとりが生まれました。
プログラミングの「プ」の字も知らなかった私にとって、AIはまさかこんな形で自分の仕事に役立つとは想像もしていませんでした。以前は、AIやIT技術と聞くと、専門知識が必要で自分には関係ないものだと感じていましたが、ChatGPTはまるで優秀な「壁打ち相手」であり、「思考のパートナー」のように感じています。プログラミングができなくても、AIを「対話相手」として活用することで、自分の「伝える力」を磨き、業務の質を高めることができるという、新たな可能性を見出すことができました。
AIで成長!スキルアップとキャリア
AIは感情を持たないからこそ、客観的で公平な視点を提供してくれます。その容赦ない指摘は、時に耳が痛いこともありますが、私の成長には欠かせない存在となっています。これからも、この「厳しい教師」との対話を重ねながら、もっと多くの業務でAIを活用し、文系事務職としてのスキルアップを目指していきたいと考えています。この経験が、同じようにプログラミングに縁がないと感じている方々にとって、AI活用の第一歩を踏み出すきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。
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