自分では完璧な業務マニュアルを作ったつもりでした。しかし、新人に渡してみると全く使い物になりません。そんな苦い経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。私もその一人でした。長年当たり前のようにこなしてきた作業の言語化は、想像以上に困難です。知識があるからこそ、無意識のうちに重要なステップを省略してしまいます。また、自分にしか分からない言葉を使ってしまうのです。「自分にしか見えない死角」を、正確に突いてくれたのがChatGPTです。新人にマニュアルを渡す前に、AIを「厳しいレビュアー」として活用しました。すると、説明の粗さが次々と炙り出されたのです。
今回は、ChatGPTを使った手順書添削のプロセスについて解説します。実際に指摘されたポイントも詳しくお話しします。さらに、改善後に訪れた驚きの変化も併せてお伝えしましょう。
新人指導、完璧な手順書が逆効果
複数のExcelファイルからデータを抽出します。その後、所定の集計用シートにまとめ直す神経を使う作業でした。私は新人さんが迷わないように、細かく手順を書き出したつもりです。画面のキャプチャを何枚も貼り付け、赤枠で囲んで強調したほどです。しかし、配属されたばかりの新人さんに渡したところ、予想外の事態が起きました。作業開始からわずか数分で、新人さんの手が止まってしまったのです。「すみません、ここに書いてあるファイルが見当たりません」この最初の質問を皮切りに、その後も何度も手が止まります。「この『マスタ』というのはどれのことですか」
「ここをクリックした後にエラーが出たのですが、どうすればいいですか」このように、次々と質問攻めに遭ってしまいました。結局、私は自分の仕事を中断しました。そして、新人さんの横に座ってマンツーマンで指導することになります。手順書さえあれば自分の時間は浮くはずだと確信していました。しかし、現実はその真逆だったのです。丁寧に説明を書けば書くほど、かえって分かりにくくなるような感覚に陥ります。自分の説明力のなさに強いショックを受けました。
新人さんの戸惑い、寂しさと申し訳なさ
新人さんが手順書を片手に困惑している姿を見たとき、自分の努力を全否定されたような寂しさを感じました。周囲を見渡しながら助けを求めているその表情を見て、同時に申し訳なさも感じて胃が重くなったのです。
AIが暴く「暗黙の了解
自力での修正に限界を感じた私は、藁にもすがる思いでChatGPTを頼りました。単に手順書を直してと頼むのではありません。あえて厳しいレビュアーとしての役割を与えたのです。「配属初日の新人でも絶対にミスなく作業できるように書き直して」と指示します。さらに、説明不足の箇所や専門用語に対する指摘も求めました。容赦なく厳しく指摘してほしいとプロンプトに入力したのです。AIなら私のプライドを傷つけることを恐れません。客観的な視点でツッコミを入れてくれると考えたからです。

AI分析で露呈した暗黙の了解
手順書のテキストを貼り付けると、ChatGPTは数秒で反応を返してきます。その内容は、私の想像を遥かに超えるほど具体的でした。そして「痛いところ」を的確に突くものだったのです。AIはまず、全体として「前提条件が共有されていない」と断言しました。作成者の私にとっては「いつもの作業」という感覚があります。しかし、それが初心者にはいかに不親切かを解き明かしてくれたのです。AIの指摘を読み進めるうちに、私は多くの「暗黙の了解」に気づきました。その上に手順書を組み立てていたことを、はっきりと理解したのです。
人間相手だと言いにくい厳しい指摘も、AIであれば冷静に受け止められます。改善に向けた具体的なヒントとして活用することができました。
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ChatGPTが暴く手順書の「わかるだろう」問題
ChatGPTが手順書から炙り出した不備は、3つのカテゴリーに分類されます。これらはすべて、無意識に省略してしまっていた要素です。これくらいは分かるだろうと思い込んでいました。AIはそれらを「初めての人には絶対に伝わらない粗さ」としてリストアップします。自分一人で読み返しているときには全く気づかなかった点ばかりです。指摘されるたびに「なるほど、確かにそうだ」と膝を打つ思いでした。
ChatGPTから返ってきた指摘は10項目以上にのぼりました。修正後のマニュアルは、元の文字数の約1.5倍に膨らんでしまいましたが、それだけ「省略していた情報」が多かったということだと思っています。
AIが暴いた知識の壁
AIが最も強調したのは、知識の差を埋める作業の欠如でした。私は業務に慣れすぎていました。そのため、手順の裏側にある背景や用語の定義を完全にスキップしていたのです。AIの指摘は、まるで新人さんの視点をそのまま代弁しているかのようでした。具体的には、ファイルの場所の不明確さなどが挙げられます。また、社内特有の専門用語の多用も指摘されています。さらに、想定外の事態への無策という脆弱性も露呈しました。手順書としての根本的な欠陥があったのです。これらの指摘は、新人さんの質問攻めの原因となっていた箇所と完全に一致します。
AI指摘!ファイルパスの盲点
AIから指摘された最初の「粗さ」は、基本的すぎて盲点になっていたことです。それは「作業対象のファイル保存場所が明確に示されていない」という点でした。私は手順書に「デスクトップにある『勤怠集計』フォルダを開く」と書きました。しかし、AIはこれに対して様々な疑問を投げかけてきます。「どのパソコンのデスクトップですか?共有フォルダではないのですか?」「誰の端末でも同じ場所にある保証はありますか?」と問いかけてきたのです。

作成者である私にとっては、自分のデスクトップが「いつもの入り口」になります。しかし、新人さんにとっては違うのです。まずは目的のデータがどこにあるのかを知る必要があります。ネットワーク上のどのサーバーの、どの階層にあるのかという情報です。AIは、自分にしか通じない相対的な場所の記載を否定しました。誰でもアクセス可能な「絶対パス」を記載するよう強く推奨してきたのです。
当たり前すぎて伝わらない情報
新人さんに「共有フォルダはどこですか?」と聞かれたとき、私自身も一瞬「ええと、確か総務部の下の……」と詰まってしまいました。毎日使っている場所なのに、正確なパスを他人に言葉で伝えられなかったのです。これが「当たり前すぎて書かなかった」情報の怖さだと思いました。
この指摘を受け、私はファイルパスをエクスプローラーからコピーしました。すべての手順においてそのように徹底します。
社内用語の具体化、新人の誤解解消
次に指摘されたのは、無意識に使っていた社内用語や業界用語の多さです。私は「最新のマスタを反映させ、マクロを全件流してください」と書いていました。自分たちにとっては日常会話で使う言葉です。しかし、AIは初心者が理解できるように定義すべきだと指摘しました。「『マスタ』とはどのファイルのことか」を明記すべきだと言うのです。また「『流す』とは具体的にどのボタンを押す操作なのか」も説明が求められます。

「流す」「叩く」「投げる」といった比喩表現は、特定の職場ではよく使われます。しかし、それらは操作の内容を曖昧にしてしまうのです。結果として、新人さんの混乱を招く原因となるでしょう。AIは、これらの動詞を客観的で具体的なアクションに置き換えるよう促しました。例えば「〇〇ボタンをクリックする」といった表現への変更です。「〇〇メニューから××を選択する」といった具合に修正します。
業務指示の落とし穴
以前の新人さんに「これ、流しておいて」と頼んだことがありました。すると彼はファイルをゴミ箱に捨ててしまったのです。「流す=捨てる」と解釈したのでしょう。そのときは笑い話にしましたが、手順書にも同じ言葉が平然と書いてあったことに後で気づいて青ざめました。
私はAIの提案に従い、すべての曖昧な動詞を物理的な操作名に書き換えました。
予期せぬエラーへの対処法
3つ目の大きな指摘は、トラブル時の対応が一切書かれていないという点でした。手順書が「すべてがスムーズに進むこと」を前提に書かれていたのです。いわゆる正常系しか記述されていません。異常系や例外処理が完全に抜け落ちていたのです。AIは様々な疑問を鋭く問いかけてきました。「もしデータが1件もなかったらどうなりますか?」「マクロ実行中にエラーコードが出たらどう対応すべきですか?」「その判断基準がなければ、新人は止まってしまいます」と指摘されたのです。

実務において、マニュアル通りに完璧に進むことの方が稀です。予期せぬデータの不備や、システムの不具合は必ず発生します。それなのに、私は「何かあったら聞いてくれればいい」と甘く考えていました。そして、リカバリ手順の作成を怠っていたのです。AIは、よくあるエラーパターンを列挙してくれました。それぞれに対する初動の対応方法をマニュアルに盛り込むよう提案してきたのです。
新人の恐怖とエラー対処の教訓
私が席を外している間にエラーが発生したことがありました。新人さんはどうしていいか分からず、1時間も画面を見つめたまま固まっていたのです。戻ったとき「壊してしまったかと思って怖くて」と怯えながら謝られたとき、エラー対処の手順を書き忘れていた自分を責めました。
この反省を活かし、「よくあるエラーと対処法」というセクションを新設しました。
新生手順書、質問ゼロの威力
ChatGPTからの数々の厳しい指摘を反映し、私は手順書を全面的に刷新します。絶対パスを明記し、用語を具体的な操作名に置き換えました。さらにトラブル対応の手順を加えた「新生・手順書」です。これを、次に入ってきた新しい新人さんに渡してみました。すると、その効果はすぐに現れます。驚くべきことに、作業開始から完了まで質問が来ませんでした。新人さんからの質問が一度もなかったのです。彼は手順書をじっくりと読み込み、自分のペースで着々と作業を進めていきました。
修正後に新人さんが同じ手順書を使って作業したところ、私への質問はほぼゼロになりました。以前は1回の作業につき3〜5回は声をかけられていたので、かなりの改善だと感じています。
これまでなら「あの、すみません」と何度も声をかけられていた時間です。その時間で、私は自分の本来の業務に集中することができました。新人さんは、初回から一度もミスをしませんでした。完璧な集計データを完成させて報告してくれたのです。「この手順書、すごく分かりやすいです。」「何をやればいいか迷うところがありませんでした」彼の言葉を聞いたとき、私はこれまでにない達成感を覚えました。

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