手入力も、配布地獄も、バージョン管理も——全部なくなるまでの話|人事情報の転記自動化・完結編

前編・中編・後編と3本にわたって書いてまいりました。人事情報の転記自動化シリーズ。今回はその完結編として、シリーズ全体を振り返ってみたいと思います。

この記事から読まれている方のために、経緯を簡単にまとめますね。当社では建設現場で働く日々雇用の作業員を多数採用しており。面接のたびに求職者の個人情報を2つの社内システムへ手入力しておりました。それをGoogleフォームとVBA、そしてPythonと生成AIを経て。現在は全自動で転記できる状態になっています。この記事では「何がなくなったのか」と「なぜなくせたのか」を一気に振り返ります。

手書きシート転記の重荷

まず、スタート地点には、3つの重荷が積み重なっていました。

重荷の1つ目は、手書きシートを見ながらシステムに手入力する作業です。

面接のたびに、求職者が手書きで記入したプロフィールシートを見ながら。基幹システムに個人情報を入力しておりました。氏名・住所・生年月日・銀行口座——どれひとつ入力ミスが許されない情報ばかりです。中でも銀行口座の誤入力は最大のリスクでした。口座番号を1桁間違えれば、給与が振り込まれない可能性があります。他の項目であれば後から気づいて修正できますが。給与振込の失敗は本人への影響が直接的かつ深刻だからです。

次に、当時、「この作業を自動化しよう」という発想は。正直まったくありませんでした。そういうことができるという知識自体がなかったからです。今振り返ると、もし生成AIの存在に興味を持つことがなかったら。今でもあの手書きシートを目視で転記し続けていたかもしれないと思うと。ぞっとします。

重荷の2つ目は、ChromeDriverを全員のPCに配布するサポート作業です。

ChromeDriver導入・更新の課題と解決

VBAとSeleniumで転記システムを作ったとき。最初の壁はツールそのものではありませんでした。ツールを使う社員全員のPCに。ChromeDriverを正しい場所にインストールしなければならないという問題です。Windowsの隠しフォルダ(\AppData)の説明から始まり。zipファイルの解凍で詰まる方、コピー先のフォルダ階層を間違える方など。10〜20人規模でリモートサポートを繰り返しました。

一方で、重荷の3つ目は。Chromeがアップデートするたびに再発する問い合わせです。

ChromeDriverにはバージョン管理という宿命がありました

ChromeDriverにはバージョン管理という宿命がありました。Chromeブラウザが自動更新されると。ChromeDriverのバージョンが合わなくなってツールが動かなくなります。「動かなくなったら連絡してください」という案内を出しながら。問い合わせのたびに同じ配布作業を繰り返しておりました。終わりが見えない対応でした。

手入力不要、自動転記

そのため、アフター:3つ全部、なくなった

現在、この3つは全てなくなっています。

手書きのプロフィールシート:求職者が記入した個人情報を目視で転記していた時代

手入力がなくなりました

しかし、手入力がなくなりました。求職者は面接前にGoogleフォームに自分で情報を入力します。担当者はそのデータを確認し、Pythonツールの画面でボタンを押すだけで。2つのシステムへの転記が自動で完了します。手書き文字を読み解く必要も、銀行口座を慎重に確認しながら入力する緊張も。なくなりました。

ファインプレー!業務効率化ツール開発

ここで少し自画自賛させてください。クラウド人事管理システムを導入したタイミングで、転記先が2システムに増えました。もしそのタイミングで転記システムの整備が間に合っていなければ。「同じ情報を2システムに手入力する」という二重の手間が発生するところでした。幸い、システム導入前にVBAの転記ツールを用意できていたので。2システムへの手動二重入力という状況は発生しませんでした。

これは我ながらファインプレーだったと思っております。

さらに、配布サポートがなくなりました

配布サポートがなくなりました。Pythonツールの配布は、インストーラーをダブルクリックするだけです。インストーラーは社内のファイルサーバーに置いてあり。全社向けにはサイボウズのガルーンで社内回覧を流し。個別に案内が必要な場合はLINE WORKSで連絡するだけで展開できます。隠しフォルダの説明も、zip解凍の手順案内も、リモートサポートも。もう必要ありません。

バージョン管理の問い合わせがゼロになりました

Pythonツール、Chrome更新の問い合わせゼロ

まず、バージョン管理の問い合わせがゼロになりました。Python版の転記ツールはChromeDriverを使わない設計です。Chromeが自動更新されても、ツールは何も変わらず動き続けます。「Chromeがアップデートされた」という理由でツールが止まることは。構造上あり得ません。あれだけ繰り返されていた問い合わせは、Python移行後からゼロになりました。

自動化が変える心のあり方

人事情報の転記作業が自動化されたことによって、失われたのは手入力、配布サポート。そしてバージョン管理の問い合わせだけではありませんでした。数字では測れない、もっと大きな恩恵がもたらされたのです。それは、人の心のあり方そのものに対する変化でした。

まず、担当者の精神的な負担が劇的に軽減されました。手書きシートからの転記作業は、単調なルーティンワークに見えて。常にミスへのプレッシャーと隣り合わせでした。特に銀行口座のような個人情報の中でもデリケートな項目は。一桁の入力ミスが本人に直接的な損害を与えかねません。神経をすり減らしながら数字とにらめっこする時間は、心身を疲弊させます。それがまるごとなくなりました。ツールが自動で転記し、担当者はその結果を確認するだけ。この安心感は、作業時間の短縮以上の価値があると感じています。

本質業務への集中と満足度向上

次に、この変化は、担当者が本来の業務に集中できる環境を生み出しました。総務や経理、人事の仕事は、単なるデータ処理ではありません。社員一人ひとりの状況に寄り添い、働きやすい環境を整え。時には制度設計や採用戦略といった。人間にしかできない創造的・戦略的な業務が本質です。ルーティンワークから解放されたことで、担当者は目の前の社員との対話や。より長期的な視点での業務改善に時間とエネルギーを費やせるようになりました。以前は「この入力作業さえなければ」と心のどこかで感じていた無駄なモヤモヤが消え。仕事に対する満足感も向上したと聞いています。

Python+生成AIで作り直した転記ツールのGUI画面:完成版

無駄な衝突解消による組織パフォーマンス向上

さらに、部署間の連携やチーム全体の士気にも良い影響を与えました。手入力ミスによる給与振込エラーや、バージョン違いの問い合わせは。誰が悪いわけでもないのに、少なからず担当者間のストレスを生んでいました。特にリモートでのサポートは、作業が止まっている相手を待たせている焦燥感と。うまく説明できないもどかしさが積み重なるものです。そのような「無駄な衝突」がなくなったことで。本来あるべき協力関係がスムーズになりました。人間の脳は、創造性や問題解決能力といった高次な活動のために存在します。単純な反復作業から解放されたことで。それぞれの持ち場でより高いパフォーマンスを発揮できるようになったのは。組織にとって計り知れないメリットをもたらしてくれました。

💡 ここで一度立ち止まって考えてみてください

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自動化の教訓:完璧より不満解消

今回の転記自動化プロジェクトを振り返ると。最も重要な教訓は「完璧を目指さないこと」でした。このシステムが最初からPythonで構築され。生成AIが組み込まれていたわけではありません。最初はVBAのマクロから始まり。ChromeDriverのバージョン問題に直面しながらも。試行錯誤を繰り返してきました。もし最初の段階で「全自動で完璧なシステムを構築しよう」と考えていたら。きっと途中で挫折していたに違いありません。

一方で、自動化への第一歩は、誰かの「これ。もっと楽にならないかな?」という素朴な疑問や不満から始まります。総務や経理、人事の現場には、まだたくさんの手作業が残っているはずです。例えば、毎週手作業で集計しているExcelシートはないでしょうか。毎月同じ定型文をコピペして送っているメールはないでしょうか。まずは、そうした小さな不満を具体的に言語化してみてください。それが自動化の種となります。

スモールスタートで育むプログラミングの種

次に、その「種」をどう育てるかを考えてみてください。いきなり高度なプログラミング言語を学ぶ必要はありません。まずは、普段使い慣れているExcelの関数やマクロ。あるいはGoogleスプレッドシートの機能で何ができるかを探ってみるのが有効です。Webサイトの自動操作であれば。VBAとSeleniumは非常に強力な組み合わせとなります。小さな範囲で、自分一人で試せることから始めてみてください。この「スモールスタート」が極めて重要です。失敗しても自分一人の問題で済みますし。小さな成功体験は次のステップへの大きなモチベーションとなります。

成功共有、課題解決、不完全からの改善

そして、その小さな成功を周囲に共有してみてください。例えば。自分が行っていた作業が自動化されて数分短縮できたことを同僚に話すだけでも良いのです。もしかしたら。同じような課題を抱えていた方が「自分もやってみたい」と興味を示すかもしれません。VBAからPythonへの移行も。ChromeDriverという壁にぶつかったからこそ生まれた発想でした。課題に直面しても、それを乗り越えようとする姿勢が。より良い解決策へと導いてくれます。完璧な答えを最初から持っている必要はありません。不完全でも一歩踏み出し、改善を繰り返すことで、想像以上の成果を手に入れられます。これは、日々の業務改善にも。キャリア形成にも通じる普遍的な真理ではないでしょうか。

ビフォー:「当たり前」だった3つの重荷に関する解説図(日本語UI)

挑戦がくれた自己肯定感と新たな価値観

そのため、これは、日々の業務改善にも。キャリア形成にも通じる普遍的な真理ではないでしょうか。

今回の転記自動化プロジェクトは、単に業務効率を上げただけでなく。私自身の「仕事に対する価値観」や「自己肯定感」に大きな変化をもたらしました。プログラミングの「プ」の字も知らなかった私が、VBAやPython。そして生成AIといった言葉を口にするようになるとは。数年前の自分には想像もできませんでした。

最初は、「本当に私にできるのだろうか」という不安ばかりでした。ネットで検索しても、難しそうな専門用語ばかりが並び、正直。心が折れそうになったことも一度や二度ではありません。それでも、目の前の「重荷」を何とかしたいという一心で、手探りで調べ。試行錯誤を繰り返しました。小さなエラーが出るたびに「やっぱり私には無理だ」と落ち込みましたが。それでも諦めずに調べ続け、一つ解決するたびに、小さな達成感を得られました。

AI家庭教師が導く学習と成長

しかし、特に大きかったのは、生成AIとの出会いです。まるで優秀な家庭教師が隣にいるかのように。私の拙い質問にも根気強く付き合ってくれ。具体的なコードのヒントや、エラーの原因を教えてくれました。それまで分厚い参考書を前にフリーズしていた時間が、AIとの対話によって。驚くほどスムーズな学習時間に変わっていったのです。この経験を通じて、「できない」と思い込んでいたことの多くが。実は「やり方を知らないだけ」だったと気づかされました。そして、完璧な知識がなくても、まずは一歩踏み出して。目の前の課題を解決しようとすることが。どれほど大きな成長に繋がるかを身をもって体験できました。

自動化で拓く新たなキャリアと貢献

以前は、自分の業務範囲は「与えられた仕事を正確にこなすこと」だと考えていました。しかし。今では「もっと効率的な方法はないか」「この作業は自動化できないか」という視点を持って。日々の業務に臨むようになりました。この変化は、私のキャリア形成にも大きな影響を与えています。事務職として、これまで培ってきた知識や経験に加え。自動化のスキルという新たな武器を手に入れられました。これは、単なるスキルアップというよりも。自分の仕事に対する「主体性」や「貢献意欲」そのものを高めてくれたように感じています。

社内でも、「〇〇さんの作ったツール、すごく助かってるよ」「これって。他の業務にも応用できないかな?」といった声をいただく機会が増えました。自分の仕事が、誰かの役に立っていることを直接感じられるのは、何よりの喜びです。この成功体験は、私だけでなく。部署全体の雰囲気にも良い影響を与えていると感じています。以前は「この作業は仕方ない」と諦めていたことでも、「もしかしたら。自動化できるかも?」という前向きな議論が生まれるようになりました。

経験ゼロでも!業務改善へのはじめの一歩

さらに、もしこの記事を読んでくださっているあなたも、日々の業務で「これ。もっと楽にならないかな?」と感じているのであれば。ぜひ「はじめの一歩」を踏み出していただきたいです。私のようなプログラミング経験ゼロの文系事務職でも。ここまで業務を改善できたのですから、きっとあなたにもできます。

当時、「この作業を自動化しよう」という発想は、正直まったくありませんでしたに関する解説図(日本語UI)

大切なのは、壮大なシステムをいきなり作ろうとしないことです。まずは、自分が毎日行っている、ほんの数分かかる手作業でも構いません。それを自動化したら、どんなメリットがあるかを想像してみてください。Excelの簡単な関数を組み合わせるだけでも、意外と多くのことが自動化できます。Webサイトの操作であれば。VBAとSeleniumは非常に強力な味方になりますし。もしエラーでつまずいたら。生成AIに相談してみてください。きっと、優しく教えてくれるはずです。

自動化、新たな扉と可能性

「失敗したらどうしよう」という不安もあるかもしれません。私もそうでした。でも、小さな試みであれば、失敗しても大きな問題にはなりません。むしろ、そこから得られる学びが、次の成功へと繋がります。この自動化プロジェクトは、私にとっての「新しい扉」でした。その扉の向こうには、業務効率化だけでなく、自己成長や、仲間との協力。そして仕事の楽しさが待っていました。

まず、まず。「プログラミングはエンジニアがやるもの」「文系には関係ない」そんな固定観念は。一度横に置いてみてください。あなたの目の前にある小さな不満こそが、未来の大きな改善へと繋がる第一歩なのです。このシリーズを通じて、一人でも多くの方が、自動化の可能性に気づき。自分自身の力で業務をより良くしていくきっかけとなれば。これほど嬉しいことはありません。これからも、私の試行錯誤は続いていきます。もしよろしければ、またこのブログに遊びに来ていただけると嬉しいです。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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