人事の入社手続き、紙とExcelの苦行
4月。あるいは中途採用者の入社日。オフィスに爽やかな風が吹き。真新しいスーツに身を包んだ新入社員の緊張した笑顔がある。「本日からよろしくお願いします」
初々しい挨拶に笑顔で応えながら。人事担当の脳内はまったく別のことで支配されている。手元のクリアファイルに分厚く挟まれた、あの忌まわしい「紙の束」。入社手続き書類の山。誓約書、身元保証書、通勤手当申請書、給与振込口座届出書、扶養控除等申告書。1人あたり優に5枚を超える紙。10人入社すれば、机の上には50枚以上の紙の塔がそびえ立つ。

4月の初旬。机の上に山のように積まれた、まだインクの匂いがする入社手続き書類の山を前にして。私は深い、深いため息をつきました。窓の外では春の陽光が眩しいのに。私の視界にあるのは「誰が書いたか判読不能な手書き文字」と「入力ミスが許されない数百のセル」だけ。背中を丸め、マウスを握る手がじんわりと汗ばみ、終わりの見えない単純作業に。心が音を立てて削られていく感覚でした。
令和の人事、Excel入力の苦行
まず、歓迎ムードが落ち着き、新入社員たちがオリエンテーションに向かった午後。ここからが本当の戦い。開くのは、部署内で何年も引き継がれてきた重すぎるExcelファイル。ファイル名は「社員台帳_202X_最新_修正の修正_最終版」。ただでさえ起動が遅いExcelを立ち上げ。紙から画面への果てしない転記作業が始まる。たかが入力作業と侮ってはいけありません。
氏名、フリガナ、生年月日、現住所、緊急連絡先、基礎年金番号、雇用保険被保険者番号。給与振込口座。入力項目はざっと約30項目に及ぶ。
新入社員1人あたりの入力項目は、氏名から始まり振込口座、緊急連絡先。社会保険の記号番号まで含めると、優に30項目を超えます。10人分なら300回の打鍵。紙と画面を往復する眼球の動きは1000回を優に超え。夕方には目の奥に針で刺されたような痛みが走るほどでした。
人事のデータ入力マシーン化
次に、目を皿のようにして紙の文字を追い、キーボードを叩く。視線を右へ。左へ。紙。画面。紙。画面。1人分の入力が終わる頃には首の裏がパンパンに張り。5人分が終わる頃には視界がぼやけてくる。なぜ令和の時代にこんな苦行を強いられているのか。誰もが疑問に思いつつ「昔からそういうフローだから」と思考停止で片付けてきた。人事の本来の役割は、人を育て、組織を活かすことのはず。現実はひたすらExcelのセルを埋めるだけの。安価なデータ入力マシーンと化している。
判読不能な手書き文字と入力ミス、人事の悪夢
単なるタイピング作業なら、無心になればまだ耐えられる。真の地獄は「手書き文字の解読」。達筆すぎて読めない名前。かすれたボールペンで書かれたマンション名。そして、もっとも恐ろしいのが数字の解読。「1」と「7」。「0」と「6」。「3」と「8」。給与振込口座の番号欄に書かれた、乱雑で判別不能な数字たち。

間違えれば給与の振込エラーに直結する。新入社員の初任給が振り込まれない。想像しただけで胃がキリキリと痛む。「これ、7ですよね?」
隣の席の同僚に確認を求める。同僚も眉間にしわを寄せる。「うーん、1に見えなくもないけど…」
結局。本人を会議室から呼び出して直接確認する羽目になる。申し訳なさそうにする新入社員。流れる気まずい空気。確認の手間。やり直しの時間。業務はどんどん遅れていく。
終わらない入力とミス、人事の悲鳴
さらに、データの一貫性という厄介な問題が立ちはだかる。Excelの台帳に入力した後。給与計算ソフトや勤怠管理システムにも同じ情報を入力しなければならない。完璧に入力したはずなのに、なぜかAシステムとBシステムで住所の番地表記が違う。全角と半角のゆらぎ。ハイフンか、長音符か、マイナス記号か。
ある月のこと。銀行への振込データ送信期限まで残り15分。最終確認で、一人の口座番号が転記ミスで桁ズレしていることが発覚しました。あの瞬間の、心臓がバクバクと暴れだし、全身の血の気が一気に引いていく冷たい感覚。もし間に合わなければ、新入社員の初任給が振り込まれない。震える手で修正し、送信ボタンを押した直後の脱力感は。二度と思い出したくない記憶です。
紙という「アナログな原本」と、Excelという「デジタルなコピー」の二重管理。どこかで1文字でもミスが起きれば。すべてを手作業で照合し直す地獄の作業が待っている。「また修正ですか?」
ため息混じりの言葉がオフィスに落ちる。確認、修正、再確認。無限ループ。人間がやるべき仕事ではない。機械の仕事だ。限界だった。この無意味なルーチンを根絶しなければ、人事担当者の心が先に壊れる。
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誰でもできる人事台帳自動化
一方で、紙をやめる。本人が入力したデータを、そのまま台帳に流し込む。これしかない。数百万円もする高価な人事システムを導入する予算など、どこの部署にも落ちていない。手元にあるのは。日頃から使っている無料のGoogle Workspaceアカウントだけ。行き着いたのは。GoogleフォームとGoogle Apps Script(GAS)。そしてスプレッドシートの連携による自動化。

仕組みは拍子抜けするほどシンプル。本人がGoogleフォームにスマートフォンやPCから入社情報を入力する。フォームが送信された瞬間、GAS(自動化プログラム)が裏側で静かに起動。スプレッドシート(社員台帳マスター)の最終行に。入力された約30項目のデータが自動で転記される。Excelで台帳を管理している場合でも。スプレッドシートをマスターにしておけばいい。必要に応じてCSVで書き出すか。Googleドライブ上で直接Excel形式として同期させる手もある。
GAS送信時トリガー、未知への挑戦と不安
ポイントは「GASの送信時トリガー」。フォームの送信ボタンが押されたという「イベント」を合図に。プログラムが走り出す仕組み。
そのため、ネットで見つけた「自動化」の手順通りに進めているはずなのに。いざ「トリガー設定」という無機質な設定画面を前にすると、手が止まりました。「もし、ここを間違えて今の台帳が全部消えたらどうしよう」。プログラミングの知識がない私にとって、それは未知の領域への恐怖でした。しかし、「あのコピペ地獄に戻るくらいなら」という一心で。恐る恐る保存ボタンをクリックしたのを覚えています。
プログラミングの知識は皆無。最初は「スクリプトエディタ」という黒い画面を見ただけで拒絶反応が出た。

やることは決まっている。フォームの回答データを受け取り。スプレッドシートの指定シートの最終行に追加するだけ。たった数行のコード。ネットの海に転がっているサンプルコードを拾い、コピペして少しだけ手直しする。「こんな数行の英語の羅列で本当に動くのか?」
半信半疑のままテスト用のフォームに入力し。送信ボタンを押す。
3時間→3分への劇的短縮と精神的解放
しかし、PCモニターでスプレッドシートを開いたまま。手元のスマートフォンからテスト入力を実行。「送信」をタップ。数秒の沈黙。パッ、と画面の最終行に新しいデータが浮かび上がった。

氏名、住所、振込先口座番号。スマートフォンで入力した文字が、一言一句違わず台帳に刻まれている。「おおっ…!」
誰もいない夜のオフィスで、思わず声が出た。手で打っていない。紙を見ていない。あの忌まわしい手書きの「1」か「7」か悩む時間が、跡形もなく消え去った瞬間。
スマホでテスト送信をした直後、誰もいない夜のオフィスで。PCの画面を見つめていました。1秒、2秒。パッ、と画面の下の方に、今スマホで打ったばかりの名前が自動で浮かび上がった瞬間。鳥肌が立ち、思わず「よしっ!」と拳を握りしめました。今まで自分の手で苦労して打ち込んでいたものが。見えない糸で操られるように整列していく。その光景は、まさに魔法そのものでした。
3時間→3分!業務効率と心の解放
さらに、効果は絶大。これまで、複数名の新入社員情報を入力し、トリプルチェックを行い。最終確認を終えるまでに計3時間を費やしていた。それが今や、フォームのURLを入社案内メールに貼り付けて送るだけ。
導入前は、10名規模の入社手続き完了までに、入力、ダブルチェック。修正を繰り返して計3時間はかかっていました。それが今では、全員の入力が終わったスプレッドシートを開き。目立つ誤字がないか確認するだけ。実質的な作業時間はわずか3分。残りの2時間57分は、完全に自由な時間になりました。
新入社員は自分のスマホから、通勤電車の中や自宅のソファで空き時間に入力できる。面倒な手書きの煩わしさもない。人事担当者は、スプレッドシートに勝手にデータが集まっていくのをただ眺めるだけ。仮に誤字脱字があっても、それは「本人の入力ミス」であり。こちらの転記ミスではない。転記ミスによる給与振込遅延リスクは激減した。3時間が、3分に。単なる作業時間の短縮ではない。「いつまでにあの入力やらなきゃ…」という目に見えない重圧からの完全な解放。精神的疲労の削減効果こそが計り知れありません。
自動化が生む時間と人の仕事
まず、Excelへの終わらないコピペ作業。それは仕事ではなく、ただの「作業」。人間が手作業で右から左へデータを移し替えることに、何の付加価値もない。むしろ、ヒューマンエラーという爆弾を抱え込むリスク行為に過ぎありません。

GoogleフォームとGASの連携。やってみれば、拍子抜けするほど簡単だった。特別なシステム開発費はいらない。上司に稟議書を通す必要すらない。目の前の不便を、手元にある無料ツールでつなぎ合わせるだけ。この泥臭くも確実な小さな自動化がもたらしたのは、単なる業務効率化ではない。圧倒的な「時間」と「心の余裕」。
空いた3時間で何ができるか。緊張している新入社員の心をほぐす、ウェルカムランチの企画。古くなっていたオンボーディング資料のブラッシュアップ。入社後1ヶ月のフォローアップ面談の丁寧な準備。これらこそ、システムやAIには絶対に代行できない、血の通った人事の大事な仕事。
非エンジニアこそ、自動化で業務改善
次に、紙の束に埋もれ、Excelのセルと睨めっこする日々はもう終わらせる。手書き文字の解読に悩む時間を、人と向き合う時間に変える。そのための第一歩は、ほんの少しのコードと、既存のやり方を疑う小さな勇気。自動化の波は、決してエンジニアだけのものではない。現場で汗を流す非エンジニアこそが、その恩恵を最も享受できるはずです。
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著者はこうして解決の糸口を見つけた
著者も同じ境遇から始まりました。独学でここまで自動化した道のりを参考にしてみてください。
学習サービスとアンケート
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