「とりあえず今月だけ」で始めた手修正が、半年後に巨大な例外運用になっていた話

安易な手修正が招くブラックボックス化

月末の経理部では、数字の突合作業で手が止まる場面がよくある。システムから出した売上データと、事業部の報告書の数字がなぜか一致しない。原因を深掘りしたいが、締め切りが近いとまずは処理を終わらせる判断になりやすい。

「ここ、計算合わないな…まあいい、今月だけ手で直しておこう」

まず、この一言が、あとで効いてくる。最初は数件のデータ修正で、5分もかからない作業だった。今月を乗り切るには合理的に見える。ただ、その判断が毎月繰り返されると、別の問題が育っていく。

翌月も同じ不整合が起き、先月の対応を知っている担当者が同じように手で直す。その次の月も同様だった。こうして「このデータは月末に手で直すもの」という暗黙ルールが生まれる。マニュアルにない運用が、静かに常態化していった。

手修正が招いた属人化と業務停止のリスク

最初のうちは「自分だけが知っている裏技」のような感覚もあった。だが3ヶ月ほどで手修正の件数は雪だるま式に増え。月末の残業時間の多くを奪うようになった。ある日、担当者が休んだだけで業務が止まり。「自分がいないと回らない」は名誉ではなくリスクだと痛感した。

次に、半年後には、元の正規手順を説明できる人がほとんどいない状態になっていた。新しい担当者に引き継ごうとしても、「ここはこういうものだから」としか言えない。なぜそうするのか、どこが根拠なのかが残っていない。結果として、特定の担当者しか触れないブラックボックス運用になってしまった。

手修正常態化の業務構造

なぜ手修正は常態化しやすいのか。これは担当者の根性や責任感の問題ではない。むしろ、真面目に締め切りを守ろうとする人ほど抱え込みやすい。根っこは個人より、業務の構造にある。

第一に、目の前の締め切りという絶対的な圧力だ。月末や四半期末には、何をおいても数字を確定させなければならない。データの不整合という問題が発覚しても、その根本原因を調査し。システム部門と連携して改修するような時間的猶予はない。最も手っ取り早く、確実に見える解決策、それが「手修正」なのだ。対症療法が優先される構造が、例外運用を育む温床となる。

一方で、第二に、改修の影響範囲が見えにくい問題がある。長年使っている社内システムほど、どこを触ると何に影響するかを説明しづらい。こうした状況で根本改修を提案しても。「他業務が止まったら困る」という理由で後回しになりやすい。結果として、手修正による現状維持が選ばれ続ける。

手修正:暗黙知と属人化の構造的課題

業務標準化を考えるとき、例外対応や暗黙知をいかにして表に出すかが。属人化を解消する上での中心的な課題になる。手修正は、まさにその「暗黙知」の塊だ。担当者の頭の中にしか存在しない手順は、その人が異動や退職をすれば。永遠に失われてしまう。

上司に「この手修正はリスクが高いので改修予算が必要」と何度も進言したことがある。だが返ってくるのは「今も回っている」という言葉だった。実際に回っていたのは、毎月の残業で辻褄を合わせていたからで。見えない負荷が積み上がっていた。

そのため、手修正で業務を回しても、成果として見えにくいことが多い。一方で根本改修は調整負荷が高く、失敗時の説明責任も重い。この構造がある限り、例外運用は自然には減りにくい。個人の努力不足ではなく、仕組みの設計課題として捉える必要がある。

地味な記録「例外台帳」で運用と品質改善

肥大化し、ブラックボックス化した例外運用にメスを入れる第一歩は。驚くほど地味な作業から始まる。それは「記録」だ。誰が、いつ、何を、なぜ、どのように修正したのか。そのすべてを書き出すことから始める。我々はこれを「例外台帳」と名付けた。

特別なツールは不要だ。共有フォルダに置いた、ただのExcelファイルで十分だった。重要なのは、複雑な機能ではなく、全員が手間なく記録を続けられるシンプルさである。台帳には、最低限、以下の項目を設けた。

しかし、発生日時、担当者名、対象データ(伝票番号など)、修正前の値、修正後の値。そして最も重要なのが「修正理由」と「判断根拠」の欄だ。なぜ、その修正が必要だったのか。何を根拠に、その値が正しいと判断したのか。これを言語化して残す。

業務手順をただ明文化するだけでは不十分で。なぜその手順になったのかという判断理由や過去の経緯を残すことが。業務の再現性を確保する上で極めて有効になる。この「なぜ」の部分が。担当者が変わっても同じ品質の判断を下すための道しるべとなるのです。

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記録は面倒でも監査の証跡、チームの財産

最初は面倒に感じるかもしれない。これまで頭の中だけで処理していたことを、わざわざ文字に起こすのは手間だ。しかし、この一手間が後で自分たちを救うことになる。例えば、監査が入った場面を想像してほしい。監査実務では、内部統制が正しく機能していることを示す客観的な証跡。つまり記録の有無が非常に重視される。口頭で「いつもこうしています」と説明するだけでは通用しない。「この記録に基づき、この判断基準で処理しました」と台帳を示せることは。業務の正当性を証明する強力な武器になる。

さらに、例外台帳導入前は。過去の特殊処理について問い合わせを受けると調査に時間を要することが多かった。

例外台帳をつけ始めてから、変化はすぐに現れた。これまで個人の記憶に頼っていた手修正のノウハウが、チームの共有資産になった。問い合わせに対して「〇月〇日の記録を見てください」と即答できる。曖昧だった作業が、記録によって輪郭を持ち始めた瞬間だった。

例外の分類と対策優先順位

記録を始めたことで、これまで霧の中にいた例外運用の全体像が。ぼんやりと見えてきた。次に行うべきは、その霧を晴らし、進むべき道を決めること。つまり、記録された例外を「分類」し、対応の優先順位を付ける作業です。

まず、我々は、すべての例外を根絶しようとは考えなかった。それには膨大なコストがかかるし、中には無理に直す必要のないものもある。そこで、「発生頻度」と「業務への影響度」という2つの軸でマトリクスを作り。すべての例外をプロットしていった。

影響度とは、金額の大きさや。その修正を怠った場合に業務が停止するリスクなどを指す。このマトリクスによって、これまでごちゃ混ぜになっていた例外が。自然と3つのグループに分かれていった。

1つ目は「高頻度・高影響」の例外。これは最優先で撲滅すべき対象だ。毎月のように発生し、金額も大きい。放置すれば経営上のリスクになりかねない。このグループに分類されたものは、即座にシステム改修のプロジェクトを立ち上げるか。業務プロセスそのものを見直す対象とした。

例外の戦略的仕分け

次に、2つ目は「低頻度・高影響」あるいは「高頻度・低影響」のグループ。すぐには根絶できないが、放置も危険な、最も悩ましい領域だ。ここに対しては、詳細な手順書を作成し。担当者以外でも対応できるように標準化を進めた。誰か一人のスキルに依存する状態からの脱却を目指す。

3つ目は「低頻度・低影響」の例外。年に一度程度で影響も軽いものは、「許容する例外」として管理する方が現実的だった。無理にゼロを目指すより、記録を残して再発時にすぐ追える状態を優先した。

このように、例外を頻度と影響で分類し、定期的に棚卸しする運用は。改善活動の優先度を客観的な基準で決定するのに非常に有効である。感情論や声の大きさで改善テーマが決まるのではなく。データに基づいた合理的な判断が可能になるのだ。闇雲にすべてを解決しようとするのではなく、捨てるべきものと、残して管理するもの。そして全力で直すべきものを見極める。この仕分けこそが、巨大化した例外運用を解体する鍵だった。

例外運用の定着化と継続的改善サイクル

一方で、例外台帳を作り、分類もした。しかし、それだけでは仕組みは回らない。最も重要なのは、その仕組みを日常の業務サイクルに組み込み。継続的に見直す「定着」のプロセスだ。我々は「例外棚卸しミーティング」と称して、毎月最終営業日に30分だけ。チーム全員で集まる時間を設けた。

この会議の目的はシンプルだ。今月新たに発生した例外を台帳で確認し、それがどの分類に入るかを議論する。そして、以前からリストにある例外の頻度や影響度に変化がないかを確認する。たったそれだけだ。しかし、この短い時間が。例外運用が再びブラックボックス化するのを防ぐ防波堤になった。

月次レビューで手修正を制御

暫定的な運用を恒常化させないためには。その運用をいつまで続けるのかという「残置条件」と。どのような状態になったら止めるのかという「廃止条件」をあらかじめ定義しておく必要がある。この月次レビューは、まさにその廃止条件を判断するための場として機能した。「低頻度・低影響」に分類していた例外が、最近になって頻発するようになったなら。「高頻度・低影響」に格上げし、対応を検討する。逆に、システム改修によって発生しなくなった例外は、台帳からクローズする。

そのため、このミーティングを始めた当初は。「月末に会議を増やしたくない」という不満もあった。だが3ヶ月ほどで、部署をまたいだ情報共有から原因が見つかる場面が増えた。会議の目的が「犯人探し」から「再発防止の作戦会議」に変わったことが大きかった。

半年間の月次レビューを通じて、手修正にかかる月平均工数は削減傾向になった。

小さな積み重ねと暗黙知の可視化

この運用を半年続けると、例外件数は少しずつ減り、対応のばらつきも小さくなった。担当者の頭の中にしかなかった暗黙知が、チームで管理できる情報に変わっていった。

しかし、特別な才能や、大規模なシステム投資があったわけではない。ただ、目の前の問題を記録し、分類し、見直す。この小さなサイクルを回し続けただけだ。一度始めてしまった手修正をゼロにするのは難しい。しかし、それを制御下に置き、徐々に縮小していくことは。どんな職場でも今日から始められるはずです。

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